肆幕 文明開化の時代
文明開花の時代 近代
「そういえば、歌舞伎って観たことなかったわ」
4つ目の時の古道に向かう途中、少女が言った。マイも顎に人差し指を当てて記憶を探る。
「んー、私は小学生のときに芸術鑑賞の授業で見ただけかな。今鑑賞したら、もっと楽しめるんだろうな〜!」
「衣装に注目して観るのも楽しいかもしれないわね!」
「確かに!こうしていろんな時代の着物について学べてるし」
「今のところ全問正解中だし!」
「うんうん!このままパーフェクトゲームを目指して…あれ?試練の成功条件って、全問正解することだったりするのかしら…?」
「神様から『具体的に何問正解したら合格!』みたいなことは言われなかった気がするわね…」
うーん、と唸っている間に、4つ目のブース『動画自作体験ブース』に到着した。
2人は手を繋ぎ、気持ちを切り替える。
「まっ、とにかく全問正解すれば大丈夫だよね!」
「そうね!行きましょう!」
「…この時代は…」
目の前に広がったのは、どこか懐かしい街並みだった。
「素敵な石畳に、オシャレなカフェもある!」
懐かしくもどこか異国情緒漂う風景にマイはやや興奮気味だ。
「マイ、見て!街灯に火を点けてるわ!」
「本当だ!電気じゃないってことは、ガス灯?綺麗ね」
夕暮れとガス灯の、温もりを感じる灯りに心が洗われるようだった。
そこへ、なんとなく見覚えのある女性がやってきた。マイを見るなり「あら!」と目を丸くする。
「あなた!最近の女の子はいろんな服を着るけど、初めて見る格好だわ」
「わ、私のこと?」
「えぇ、そうよ。もうひとり、可愛い子が!あなたの服装は…普通ね」
「なんだか複雑な気持ち…」
けなされたわけではないのだが、普通と評価されたことに少女はいささかショックを受けたようだ。
そして女性の自己紹介で、マイは先ほど感じた「なんとなくの見覚え」の理由を知ることとなる。
「私は樋口一葉。私の時代は、外国からの文化や技術が流れ込み、近代化が進んだの。早速、質問よ」
「はいっ!頑張ります!!」
「この時代、女性も学校に行ったり、活動的になっていったわ。そこで、女学生が動きやすくなるためにした服装の工夫は何かしら?
1.短パンを履いた
2.袴を履いた
3.着物を短くした」
「全部動きやすそうだけど、明治・大正時代と言ったらやっぱり『袴を履いた』かしら?」
「その通り!正解は袴よ」
一葉は嬉しそうに笑って、通りの向こうを指差した。見ると袴姿の女学生が3人、楽しそうに女子トークをしている。
その様子を眺めながら少女が口を開いた。
「江戸時代は女性は基本的に袴は禁止だったのだけど、学校では椅子に座ったり、体操の時間もあったから着物では不便だったの」
「なるほど!それで男性ものだった袴を履くようになったのね」
「そうそう。なかなか詳しいじゃない!では、第2問よ。文明開花の時代、着るものにも変化があったわ。利便性やオシャレの面で、更に進んだ服装の変化はどっちだと思う?
1.色使いが派手になった
2.着物に洋服を合わせた」
「うーん、どっちもありそう…」
マイは頭を抱えた。
海外のファッションと聞くと、カラフルなイメージがある。一方で、鎖国が終わり目新しい文化が日本を席巻したとあれば、新しい衣服を取り入れたくなると考えることもできる。
色使いの方が取り入れやすい。しかし新しいアイテムも手に入れたい。どちらが正解なのだろう…。
その時、先ほどの女学生3人組がいたところにおしゃれな若い女性が2人、楽しそうに話しながら歩いてきた。そのうちの1人の服装こそが、マイに幸運をもたらす。
「あーーー!『着物に洋服を合わせた』だ!」
「正解!あらら、模範解答と鉢合わせるなんて、運がいいのね!西洋から伝わった服を取り入れて着たのよ。和洋折衷ね」
その女学生のファッションは、えんじ色の着物に深い青のミドルスカート、そして黒ストッキングと黄色いパンプスだった。
「着物にスカートやパンプスを合わせているのね!」
街ゆく人からヒントを得て、無事に正解したマイ。少女が頷きながら言う。
「西洋の服は高価だから、手持ちの着物と合わせたのよ」
「そうだよね。この頃はやっぱり洋服の方が高いよね。…ん?」
少女の言葉に違和感を覚えた。会話を振り返ろうとするも、一葉の言葉で遮られてしまった。
「私からの質問は以上よ。着物はこの頃まで、普段着だったことを知ってくれて嬉しいわ。さっ、お行きなさい」
「はい!ありがとうございましたー!」
ニカッと笑って手を振る一葉に、お礼を伝えてお辞儀をする。
「洋服とも、自然に共存していたんだなぁ」
現代では、着物を着ている人の方が珍しい。ここまで4つの時代を巡り、着物姿の人たちを多く見てきたからか、着物に対して感じていたハードルや敷居の高さはほとんど薄れていた。
「現代の着物って、どういう感じになってるのかな」
残る試練はあと1つ。
そこに思いを馳せているうちに、小さな違和感のことはすっかり忘れてしまった。
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