弐幕 武家の時代
「2つ目の時の古道は…あった!」
紫式部と別れた一行は『英語で話そう!稼ごう!繋がろう!』のブース付近で時の古道を見つけた。
「英語、大学の授業でやって以来全然使ってないなぁ。後でまた来ようっと!それじゃ、2つ目の時代へGO!」
2回目ともなれば慣れたもので、えいっと飛び込んだ。
その光景よりも先に2人に届いたのは――
「さて、この時代は…って、なんか鉄砲の音聞こえない!?」
「雄叫びも聞こえるわ!?」
火薬の匂い。男たちの叫びにも似た声。金属同士が弾き合う音。
疑いようのない戦場の只中に2人はいた。
「やだぁー!まだ死にたくないーーー!」
本や画面の中でしか戦争を知らないマイは頭を抱えて取り乱す。少女は2人してパニックになるまいとしたのか、努めて冷静にマイの背をさする。
「マイ、落ち着いて!誰か頼れそうな人を探し…」
その時、少し遠くから男性の声が聞こえた。
「お、その奇っ怪な格好、もしや未来からの客人かな?」
「ひゃ、ひゃい!!」
驚きのあまり、マイの返事は上擦った。少女も声の主を探して辺りを見渡す。
マイと少女の少し後方に、甲冑を着た小太りの武将が立っていた。
「うむ、やはりか。ここは儂の…徳川の陣営じゃ。戦況も良いから敵が攻め込んでくることはまずなかろう。安心するがいい」
「よ、よ、よ、よかったぁー!…ん?徳川?ってことはもしかして徳川家康!!?さん!?」
265年に渡って続く江戸幕府の開祖。あまりにも有名すぎる武将の名を呼び捨てにしそうになったマイを、武将――徳川家康は怒りはしなかった。
「いかにも。神を名乗る者から話は聞いておる。まさか本当に時を超えてくるとはのぉ。とはいえ、あまり悠長にもしておれぬ。早速この時代の着物について問わせてもらうぞ」
「はい!」
「マイ、頑張って!!」
「この時代では武家が勢力を増し、政(まつりごと)の実権を握っておる。そうした世に、衣服はどのように変化したと思うかね?
1.簡易で実用的になった
2.華美になった」
平常心を取り戻したマイは、甲冑姿の徳川家康を見ながら考える。
先ほどの平安時代とは異なり、戦いが常の時代。武器を取り、戦場を走る。女性や子供でさえ、有事の際には逃げる必要があるだろう。
であれば。
「答えは…活発な活動をするため、簡素で実用的になった、かな」
「正解じゃ!日頃の戦などに備え、より簡素化されていったのじゃ」
満足げに家康は笑う。しかしすぐに第2問が出題された。
「さて、武家の世では簡素な衣服になったとは言ったが…武将の晴れ舞台といえば戦場じゃ。武威を誇示し、戦場を彩ったこの戦衣が何か、わかるかな?
1.袖なし羽織
2.陣羽織
3.長羽織」
そう言って家康が部下に持って来させたのは、豪華な柄や装飾が施された、袖のない上着だった。
「えーっと…なんかこう、戦国っぽい感じじゃないかな…うーん…」
その時マイはふと、この時代に来てすぐ聞いた家康の言葉を思い出した。
--『うむ、やはりか。ここは儂の…徳川の陣営じゃ』
「陣営…陣地…そうか!答えは、陣羽織じゃない?」
「おお!見事じゃ!!」
家康は驚いた表情こそ見せたものの、嬉しそうに手を叩いた。
「これは太閤、つまり豊臣秀吉が所有しておった『陣羽織』じゃ。もとはペルシャで織られた絨毯であろうな」
やや得意げに語る家康の説明に、少女は目を輝かせる。
「ペルシャ絨毯!異国情緒あふれるね」
「伊達政宗なども南蛮文化を積極的に取り入れておったの」
「『伊達男』や『伊達眼鏡』の由来だね」
「うむ。このように、武将たちは戦場で綺羅を尽くしたわけじゃ」
外国文化の話題で盛り上がる家康と少女を見て、マイは目を瞬かせた。
「すごーい!詳しいのね」
「えへへ、ありがとう」
笑い合う二人の近くに、現代へと通じる時の古道が開く。
「さてと、神の試練はここまでとしよう。戦乱の中、強く生きた者たちが作った文化はまだまだ奥が深い。この歴史を受け継ぎ、活かしてくれると嬉しいのう」
そう言って微笑む家康は、親戚のおじさんのように和やかだった。
「はい!ありがとうございましたー!」
各地で戦火が飛び交った『戦国時代』。
武士たちは戦うために衣服を改良しながら、海の向こうの新たな文化も受け入れていったのだった。
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